約 4,593,555 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1965.html
145 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/17(水) 00 39 12 ID 62RE9K3N 翌日の放課後。俺は職員室に呼び出されていた。呼び出したのは担任の黒川先生だ。 「まあ座ってくれ。悪いな、急に呼び出して」 「……俺、何かしましたっけ?」 先週提出締め切りの科学のレポートはちゃんと出したはず。 確かに多少ネットから切り貼りしたが、大半は自分でやった。まさかやり直しなのかと思わず身構える。 「そう身構えるな。別に怒るために白川を呼び出した訳じゃない」 「あ、そうなんですか……」 「まあレポートの切り貼り部分についてはまた今度たっぷりと搾るけどな」 「ぐっ!?」 やっぱりばれてたのか。でも用件はそれではないらしい。 「……話は兄貴から聞いた。大和の方はもうすぐ退院するそうだし、美空の方は会社が隠すから誰かに伝わる心配はないだろう」 「えっと……あ、先生の兄貴って……あの医者」 「ああ。私もこないだ聞かされた時には驚いたよ。まさかいつも愚痴って……いや、心配していた生徒が兄貴の患者だったんだからな」 一瞬本音が出かけていたが気にしないことにした。そういえばこないだあの医者、黒川さんがそんなこと言っていたな。 じゃあ先生も一部始終を知っているのか。……勿論俺のしたことも、だろう。 「白川、お前は大丈夫なのか?」 「俺は……大丈夫です」 大丈夫……一体何に対しての質問なのだろうか。いずれにしろ大丈夫だと思わなければやっていけない気がした。 「……記憶喪失になっても白川は白川だ。誰が何と言おうとお前は私の知っている生意気な白川要だよ」 「……はい」 先生も何だかんだで心配してくれていたらしい。一人ぼっちだと思っていたが、意外と自分が思っているより世界は優しかった。 「お前には信じてくれる仲間がいるはずだ。大事にするんだぞ、そういうのは」 「……はい!」 「良い返事だ。呼び出してすまなかったな。もう良いぞ」 先生は微笑みながら俺の背中を叩いた。初めて見る先生の笑顔はどこかぎこちなかったけれど、とても心が暖かくなった。 「失礼しました」 先生に一礼して職員室を出る。……色んな人に支えられていたんだな、俺。 「要、お疲れ様」 振り向くと遥が壁に寄り掛かっていた。こんな所で何をしていたのだろうか。 「おう。職員室に用事か?」 「ううん、偶然要が入って行くの見たから……その……待ってようかなって」 「そ、そっか」 顔を赤らめながら上目遣いで話す遥。思わず昨日のことを思い出してしまう。 遥の唇、柔らかかった……って落ち着け俺。心なしか自分の顔も赤くなっている気がしてならない。 「あ、あのね……もし良かったら……映画行かない?」 「映画……?」 「う、うん。気晴らしになるかなって……要が暇だったら、だけど」 心臓が高鳴っているのが自分でもよく分かる。緊張しているんだ、俺。 「行く。いや、行かせて下さい」 「じゃあ早く行こう?」 途端に笑顔で俺の右腕を掴んで歩き出す遥。彼女の動きに合わせて揺れる綺麗な白髪につい目を奪われてしまう。 それくらい遥のことを急激に意識している自分がいた。 146 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/17(水) 00 40 37 ID 62RE9K3N 駅前の映画館から出て来た時には既に辺りは真っ暗になっていた。もう12月の初めということもあって駅の中心部には大きなツリーが設置されていた。 「……物凄い映画だった」 「ああ。てっきり純愛物だと思ったのにな」 俺達は歩きながら先日公開してブームを巻き起こしている映画、『先輩(僕)は後輩に恋される』について話していた。 タイトルだけ見ると純愛物に見えるのだが中身はホラーサスペンスラブロマンス……。 要するに後輩であるヒロインの愛が恐すぎる、という一言に尽きる。 「でも後輩役の女優さん、凄く可愛かった」 「確か今話題のモデルだよな?えっと……神谷何とかって言ってたような」 映画の話をしながらも内心は心臓バクバクな状態だ。話題の映画、しかも純愛風ということもあって周りはほとんどカップルだった。 そのせいか隣にいる遥を妙に意識してしまったのだ。 「神谷……美香だった気がする」 「そ、そうだっけ」 話しながら横目で遥を見る。今までよく見ていなかったが普通に可愛い。 ぱっちりとした目鼻立ちに小さな唇。そして遥だからこそ似合う真っ白で肩まである髪。 どう見たってトップクラスの可愛さだ。意識しなかったことが奇跡としか思えない。 「今日はありがとう。付き合ってくれて」 「い、いや……俺の方こそありがとな」 気が付けば遥は帰ろうとしていた。そういえば今日は夜からバイトって言っていたな。 「じゃあわたしは――」 「バイトって何時から!?」 無意識だった。つい叫んだ自分がいた。このまま帰したくないと素直にそう思った。 遥はいきなり出された大声に目を丸くしている。 「え、えっと……8時からだけど……」 時計を見る。まだ6時前だった。 「だ、だったらちょっとお茶しないか。"向日葵"のコーヒー、久しぶり飲みたくってさ」 言った瞬間顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。何だよこれ。めっちゃ格好悪いじゃん。 「……いいよ」 「ほ、本当か!?……あっ」 遥を見るとまた恥ずかしさが振り返してくる。そんな俺を見て遥もまた顔を赤らめていた。 喫茶店"向日葵"は何時にもなく混んでいた。何とか二人席に通して貰い一息つく。 「今日は何か混んでるな……」 「いつもと正反対」 とりあえずいつものコーヒーを二人分注文する。店内は人の多さはあるものの、コーヒーが醸し出すゆったりとした雰囲気をちゃんと保っていた。 「これだけ人がいるとマスター大変だろうな」 「ずっと暇って愚痴ってたからちょうど良い」 「ははっ、違いない」 遥と二人きりで話すのは久しぶりだが凄く落ち着く。変に気を遣わなくて良いし自然と話せる自分がいた。 もしかしたら学校で疎遠にされている分、そう感じるのかもしれない。しばらくして来たコーヒーを飲む。いつもと同じ、変わらない味だった。 「さすがに忙しくてもこの味だけは変わらないな」 「変わらないことは難しい。でもその分変わらなければ覚えていてくれるから、だから変わらないことは良いことだと思う」 「……遥はさ、何で要組に入ったんだ?」 遥とじっくり話してやっと分かった。彼女は口数こそ少ないが自分をしっかりと持っている人だ。 そんな遥が要組を依り処にした理由が聞きたかった。優のように弱さを隠す為なのだろうか。それとも別の理由なのだろうか。 「……それは要が思い出して。じゃないと意味無いから」 「……そりゃそうか」 「ただ、一つ言えるのはね……その……」 急に言葉を詰まらせる遥。何か言いにくいことを言おうとしているような気がした。 「……遥?」 「か、要だよ!……要がいなかったら……わたし……きっと入らなかったから」 最後の方は今にも消え入りそうな声だったが辛うじて聞き取れた。顔を真っ赤にして俯く遥を見て同じくらい自分も赤いような気がした。 「そ、そっか……」 「う、うん……」 恥ずかし過ぎて遥をちゃんと見られない。どうしちゃったんだ俺。いくらなんでも意識し過ぎだろ。そう思っても中々心臓の鼓動は収まらなかった。 147 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/17(水) 00 41 45 ID 62RE9K3N 「じゃあ……バイト、行くね」 「おう。引き止めたりして悪かったな」 結局あの後会話は続かず二人で黙ってコーヒーを味わった。不思議とそれもそれで落ち着けて悪くなかったのだが。 「ううん。……嬉しかったから」 遥は今まで見せたことのない柔らかい笑みを浮かべた。とても魅力的で他の誰かに見られなくない、そんな笑顔だった。 「遥……ありがとな」 「……要はやっぱり変わらない。ずっとわたしを照らしてくれる。だから……好きだよ」 「……えっ?」 俺が言葉の意味に気が付く頃には遥はもう走り去っていた。それでも遥の小さな背中を見つめてしまう。 「……好き、か」 すっかり冬になった星空を見上げながら俺は一人思う。遥の"好き"と俺の"好き"は同じ意味なのか、と。 自分が虐められることには慣れていた。思えば小学生くらいには既に潤と一緒に虐められていたし、そのせいか耐える術も身につけた。 ただ人が虐められているのを見過ごせなくなってもいた。分かってしまうのだ。その人の苦しみや悲しみが。 何より当時の、虐められていた時の自分はひたすらに"誰でも良いから助けて!"と願っていたから。 「……助けて、なんて言ってない」 「気にすんな。俺が勝手に割り込んだだけだから」 だからこの時、遥を虐めから助けた時も特に他意はなかった。ただ誰かが虐められている現場を見たくはない、それだけの気持ちだったんだ。 「余計な……お世話」 「分かってる」 「分かってない!気まぐれで助けられても迷惑なだけ!」 遥の家は貧乏だった。後で聞いた話だが父親は既に他界していて、母親も働いてはいるが病気がちで思うように働けないのだそうだ。 遥も生れつき喘息持ちで抑制する薬の影響で髪が白くなってしまっていた。それらが女子の間で噂となり、世渡りがあまり上手くない遥は虐めの対象になっていた。 「……俺は春日井の髪、真っ白で綺麗だと思うけど」 「う、煩い!お前なんかに何が分かる!?どうせ虐められたことなんて――」 「あるよ。少なくとも今の春日井よりはね」 母親が死んで叔父さんと叔母さんに引き取られて桜ヶ崎に来るまではずっと虐められていた。 別に彼女に同情しているわけじゃない。だけど彼女が虐められていた時、自然と身体が動いていた。 「わ、わたしは誰も信じない!独りで生きて行くって……決めたんだから」 「……もし独りが嫌になったら生徒会室に来てくれ。待ってるからさ」 春日井は俯いていた。俺に出来るのはここまでだ。後は彼女が決めること。 大丈夫。誰だって独りでなんか生きては行けない。だからきっと春日井は来てくれる。そう信じて俺はその場を後にした。 148 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/17(水) 00 43 32 ID 62RE9K3N 「要、起きなよ」 「……英か」 今のは夢、というか忘れていた記憶か。周りを見渡すと既に教室には人があまりいなかった。 どうやら爆睡していたらしく5時間目を軽くすっ飛ばして放課後になっていたようだ。 「よく寝てたな要。夜中に一体何やってたんだこのエロチック小僧!」 亮介がこっちに近付いて来る。クラス中に避けられている為か誰も起こしてくれなかったらしい。 「うるせぇ亮介。英、起こしてくれてありがとな」 「最近色々あって要も疲れているんじゃないかな?今日はもう早く帰った方が良いよ」 「そうだな……」 遥は今日すぐに駅前のレンタルビデオ屋でバイトらしい。 「……行ってみるかな」 「ん?どうした要」 「何でもねぇよ」 亮介に言ったら面倒臭いことになりそうだし黙って行くか。 「まあその前にいつもの一杯なわけですが」 駅前喫茶店"向日葵"は昨日の満席状態とは打って変わってガラガラだった。まあこの方が俺は好きなんだけどさ。 「マスターいつものね」 「はいよ」 奥から二番目、ここがよく要組で集まっていた場所と昨日遥が言っていた。 座ってみるとやはり落ち着く。マスター渾身のコーヒーを飲みながら物思いにふけてみる。 「……春日井遥、か」 ここ2、3日で遥との距離が一気に縮んだ気がする。むしろ俺が積極的に絡んでいるのかもしれないな。 遥のあの穏やかな笑顔が頭から離れない。もしかしたら俺は遥のことが―― 「あ、先約か」 「えっ?」 声がしたので咄嗟にそちらに顔を向けるとそこにはサングラスを掛けた赤髪の美少女がいた。 ……何処かで見たような―― 「あっ!?昨日見た映画の――」 「声がでかい!」 「ぐはっ!?」 一瞬で腹部に蹴りを入れられる。なんつーキレのある蹴りなんだ。 つーかこの声……やはり昨日見た映画に出ていたモデルさんだ。確か名前は……。 「か、神谷美香(カミヤミカ)……?」 「あーあ、ここならばれないと思ったのにな」 サングラスを取る赤髪の女性。目の前にいる彼女は紛れも無く昨日スクリーンの向こうで見ていた神谷美香だった。 149 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/17(水) 00 44 23 ID 62RE9K3N 「へぇ、じゃあ白川君はまだ高校生なんだ。若いなぁ……」 「神谷さんこそ19歳には見えませんよ」 「ああ!?喧嘩売ってんのか!?」 「いや、褒め言葉ですから」 人は見かけで判断できないというが神谷さんはまさにそれだった。 明らかに高校生にしかみえない容姿(ここでは褒め言葉とする)に、可愛らしい雰囲気とは裏腹に豪快で何と言うか……男気溢れるといった感じだ。 「しかし懐かしいなぁ。この街も半年ぶりだし」 「今はモデルのお仕事をされているんですよね」 「…………」 「……ん?どうかしましたか」 気が付くと神谷さんが俺の顔をじっと見つめていた。 「……ううん。ただ白川君がわたしの好きな人に、ちょっと似てたからさ」 「好きな人……ですか」 「ほんのちょっとだけだけどね」 神谷さんは少し寂しそうに笑った。一体彼女が好きな人とはどんな人何だろうか。 「しかし君とは何か気が合うね。たまたま仕事ついでに寄ったけど、君に会えて良かったよ」 「俺もモデルさんと会えるなんて思わなかったんで嬉しいです」 「……可愛いな、コイツ!」 「か、神谷さん!?」 神谷さんが近寄ってきて頭を撫でられた。何だか恥ずかしいが神谷さんは気分良さそうに俺を撫で続けている。 「いやぁ久しぶりに癒された。あ、折角だから連絡先交換しよっか」 「良いんですか?モデルさんなら事務所とか……」 「良いの良いの!どうせわたしがいないと困るのあいつらだし」 何と言う暴君。赤外線を使って連絡先を交換する。まさかこんなところで人気モデルと連絡先を交換するなんて夢にも思わなかった。 「ありがと。……今時誕生日と名前なんて古風だね。しかもピリオド二つか」 「いや、あんまり良いのが思い付かなくて……二つ?誕生日と名前の間に一つだけですけど…」 新しく携帯を買った時に潤と一緒にアドレスを考えたが、分かりやすいようにピリオドは間に一つだけにしたのだが。 「でもほら、二つあるよ?」 「……あれ?可笑しいな……勘違い…か」 何かが腑に落ちない。何だこの感じ。何かとてつもなく大事なことを見逃しているような―― 「……白川君、大丈夫?わたしそろそろ行くけど」 「あ、ああすいません。俺も一緒に出ます」 結局何が原因かは分からず仕舞いで喫茶店を出て神谷さんと別れた。 「……今日は帰るか」 本当は遥に会いに行くはずだったのだがアドレスの件が妙に頭の隅に残っている。 「……また明日、だな」 俺はそのまま家に帰ることにした。 「神谷さん!また貴女勝手に抜け出して!自分の立場分かってるの!?」 「休憩時間中に何処行こうとわたしの勝手でしょ」 スタジオに戻ると案の定マネージャーが烈火の如く怒っていた。 「貴女ねぇ!売れっ子モデルっていう自覚あるの!?変なファンが何するか分からないんだからね!?」 「自分の身くらい自分で守れるから。……どっかの極悪メイド以外ならね」 このマネージャーで5人目。皆わたしの身勝手さに疲れて辞めて行った。別にそんなに嫌がらせしてるつもりはないのだが……。 「……新しいマネージャー募集しようかな」 何故か白川君の顔が思い浮かぶ。あの人に、先輩にどことなく似ている彼の顔が。 「……変なの」 「神谷さん聞いてる!?」 「はいはい、気をつけますよ。早く続きやっちゃいましょ」 先輩を待ち続ける気持ちに変わりはないのだけれど、ちょっと白川君が気になった。 150 :リバース ◆Uw02HM2doE :2010/11/17(水) 00 45 19 ID 62RE9K3N 久しぶりに部屋で勉強をする。気が付けばもう12月。冬休み前の期末テストまで後一週間を切っていた。 「微分が……?つまりこの場合Xは0にな――」 『だから……好きだよ』 「……ちょっと休憩」 シャーペンを放り投げてベッドに横になる。 遥のことが気になってしまい、実際勉強どころではなかった。やはり今日バイト先に行くべきだったのか。 「好き……かぁ」 遥の気持ちはすごく嬉しいし俺も遥のことは好きだ。でも果たして俺の"好き"はどういった種類の好きなんだろうか。 自分でもよく分からない。仲間として好きなのは確かなのだけれど……。 「わっかんねぇ……」 「……兄さん?ちょっと良いかな」 そんな時、ドアがノックされた。どうやら潤がいるらしい。 「どうぞ」 「お邪魔します。兄さん、実は話があるんだけど……」 「話って……どうした?」 潤はいつにもなく神妙な顔つきをしていた。思わずベッドから起き上がる。潤は俺の隣に腰を降ろしたまましばらく黙っていた。 「……潤?」 「……あ、あのね兄さん。落ち着いて聞いて欲しいんだけど」 「……何だ?」 「もしかしたら……兄さんは罠にかけられたかもしれない」 潤が真剣な表情で言うのでとりあえず聞くことにした。 「罠……?」 「兄さんのアドレス、最近ちゃんと確認した?」 「……やっぱりか」 先程気になっていたこと。まさか潤に言われるとは思っていなかった。 「うん。明らかにピリオドが一つ多い、でしょ?」 「俺も今日気付いた。でもこれが何だって――」 潤は無言で自分の携帯を見せてきた。表示されているのは俺のアドレスだ。 「……あれ?」 「ね?私の携帯にはちゃんとピリオド一つだけで登録してあるの。可笑しいと思わない?」 確かに。何故俺と潤の携帯に登録してあるアドレスが違うのだろう。 「でも確かこの前の写メは時間かかったけどちゃんと俺に届いたよな」 「そう。"時間かかって"ね……。つまりいるんだよ」 「いるって……どういうことだよ?」 何かとてつもなく嫌な予感が、聞いてはいけない何かがある気がする。 「兄さんのアドレスを使ってメールを経由する誰かさんが、ね」 「……えっ」 潤は冷たく微笑んでいた。まるでその誰かさんが分かっているかのような、そんな笑みだった。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1014.html
640 :クリスマスが今年もやってくる [sage] :2008/12/24(水) 23 50 46 ID aGZLMkj+ あなたはサンタクロースにどんなイメージを持っていますか? 一般には、赤い服に白い髭をたくわえ、白くて大きな袋を持ったおじいさんでしょうか? でも、本物は違うんですよ。本物は赤い服じゃなくて黒っぽい藍色の服を着てるんです。 なんでも、近頃は不法侵入で捕まってしまう仲間もいるので、見付かりにくい服を着ているそうです。 それに、白くて大きな袋なんて持っていません。彼が持っていたのは黒い鞄でした。 中に入っているのは、プレゼントの、宝石がついたアクセサリー等や、仕事に使う秘密道具。 最近の家には煙突なんてお洒落なものがないので、いろいろ道具が必要なようなんです。 そして極めつけに、サンタは白いお髭のおじいさんじゃなくて、若いお兄さんなんです。 おじいさんサンタはもっぱら、どの家をまわるかなどの計画を練る係で、実際に配るのはお兄さんみたいな若者なんだそうです。 641 :クリスマスが今年もやってくる [sage] :2008/12/24(水) 23 52 27 ID aGZLMkj+ どうしてこんなに詳しいのかって? 実は私、去年のクリスマスにあったことがあるんです、サンタに。 嘘じゃないですよ。ちゃんと本人に確認をとったんですから。それにプレゼントも貰いました。一生の宝物です。 この一年間、大切に育ててます。といっても、育て始めたのは二ヶ月前なんですけど。 世話は大変だけど毎日がとっても楽しいです、ホントにサンタには何度お礼を言っても足りません。 だから、捜しました。彼を。 そしたら、すぐに見つかりました。探偵ってすごいですね。みなさんも人捜しするときはお願いしたほうがいいですよ。 沢理 惣佑(さわり そうすけ)22歳、独身、彼女無し。家族は父母と妹が一人。現在は家族とは別居し、アパートで一人暮し。 サンタとしてのお仕事がないときはコンビニでアルバイト。サンタってクリスマスの日以外にも、働くんですね。 彼を見つけたときに、私は一つ、アイディアを思い付きました。とってもステキなサプライズを。 サンタはいつもプレゼントを配る側、だから今回はもらう側になってもらいましょう。 642 :クリスマスが今年もやってくる [sage] :2008/12/24(水) 23 53 58 ID aGZLMkj+ 今夜はクリスマス。きっと彼の帰りが遅いはず。そのすきに部屋に入ってパーティーの準備をしたいと思います。 彼がアパートを出たのを確認したら彼の部屋へ。幸い、部屋の鍵は入手済み。すぐに入れました。 料理は得意なので手料理です。伊達に一人暮しを五年もやってません。飾り付けは苦手ですが頑張ってみました。 プレゼントもちゃんと用意しました。彼が帰ってきたらどんな顔をするでしょうか? 今から楽しみです。 643 :クリスマスが今年もやってくる [sage] :2008/12/24(水) 23 55 01 ID aGZLMkj+ 今年はあげる側の私ですが、今年もプレゼントをもらいたいです。なので、ちょっと料理に一工夫をしてみました。 ああ、そうだ。彼が帰ってくるのを待っている間に、私の宝物にお乳を与えておきましょう。 もしかしたら、彼もこうやって私のお乳を飲むかもしれません。そう考えるだけで胸が張ってきます。 果たして彼は気に入ってくれるでしょうか。このプレゼント《家族》を。 ああ、今年もクリスマスがやってくる。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1927.html
496 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/18(月) 01 06 05 ID nzeKkCQd ジュルッ、ジュルル……ブジュ…… 晃は僕の唾液を強く啜ると、逆に彼女自身のを僕の口に流し込んできた。 強引な体液交換だ。僕は黙って飲み込むしかなかった。 「んん……」 「ぷはあっ」 やがて満足したのか、晃は口を離した。 「吸って」 今度は、巨大な胸の先端、ピンク色の突起を僕の口元に突き出してくる。 「あの……」 「グダグダ言わない。黙って吸う」 「…………」 僕は逆らえずに、晃の乳首に口を付けた。 「あんっ……分かってたんだからね。あたしの胸マッサージしてるとき、いつもチンチン固くしてたでしょ?」 「それは……」 口ごもる僕。図星だった。僕だって生物学的には牡なのだ。 年頃の女の子の裸を見て触れて、反応しないで耐え続けるのは至難の技だ。 「フフッ。いいんだよ。責めてるわけじゃないんだから」 そう言うと晃は僕の手を掴み、乳房へとあてがった。 「これからは……ううん。今までもこれからもずっと、これは詩宝だけのものなんだから、詩宝が好きにしていいんだよ」 「…………」 僕は無意識に、晃の胸を揉みしだいていた。 触り慣れているはずなのに、今までと何かが違う気がする。 「んっ、あっ、いいよ詩宝。気持ちいい……」 これは、マッサージと愛撫の違いなのか。 ――僕は今、晃を愛撫している……? 違和感が、頭をよぎった。 微妙な、友達同士とも何とも言えない関係が崩れて、僕は気が動転しているのだろうか。 しかし、僕が考えをまとめるのを、晃は待たなかった。 「あはは、もうグショ濡れだわ」 腰を浮かせて、晃は自分の秘所を示す。 そこからは確かに、大量の粘液が滴り落ちていた。 晃のその部分も、僕は何度となく見ているはずなのに、今はまるで印象が違った。 ――これは一体、何……? 茫然としていると、晃がいきなり僕のものを握り締めた。 「あひっ!?」 「詩宝もカッチカチだねえ。お互い準備OKってことで、本番いっちゃいますかあ」 晃は何の躊躇も見せず、僕の先端を秘裂にあてがった。 「行くよ……あ、もちろんあたし、これが初めてだからね」 「あ、晃。ちょっと待……」 「うへへへ……念願の詩宝のチンポで脱処。それっ……」 ためらう僕を黙殺し、晃は腰を沈めた。 「あうっ……ちょっと痛いかな。でも凄いカイカン……」 「んんっ!」 僕は眼を閉じ、挿入の快感に耐えていた。 しばらくして目を開くと、破瓜の血が流れるのが見える。晃は少しずつ腰を動かし始めた。 「あっ! いいっ! ううああ!!」 晃の腰の動きは、どんどん激しさを増す。 「ひいっ! そ、そんなに動かさないでっ!」 挿れていると言うより、晃の膣に咥え込まれ、引き摺り回されているような感覚がした。 もちろん、ぶつけられる快感は半端ではない。 「出ちゃう! このままじゃ出ちゃうよっ!」 「あぎいっ! おぐうっ! いいよっ! 中で、あたしのマンコの中でぶちまけてっ!」 僕が限界に達したのは、それから間もなくだった。 497 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/18(月) 01 07 22 ID nzeKkCQd どうでもいい授業を聞き流しながら、私は考え事をしていた。 ――やっぱり、詩宝さんを連れてくるべきだったかしら? 下手に外に連れ出すと、あのゴキブリメイドに襲われかねないと思って屋敷に残ってもらったが、こうして離れてみると、寂しくてたまらない。 明日からは、詩宝さんと一緒に学校に来よう。そして、私の膝の上に座ってもらって、同じ授業を受けよう。 詩宝さんと私では学年が違うが、詩宝さんなら1年上の授業ぐらい簡単に理解できるだろう。 何なら、校長に命じて詩宝さんを飛び級にさせてもいい。 夫婦なのだから、同じ学年の方が何かと便利だ。 一緒に学校に来ると決まったら、当然休み時間には、人気のない場所で夫婦の営みだ。 詩宝さんの精液をあそこから垂らしながら、何食わぬ顔で授業を受ける私。 ノーパンノーブラのお乳やお尻には、“詩宝専用”なんてマジックで書かれちゃったりして…… そこまで想像したとき、携帯電話のバイブレーターが作動した。メールの着信だ。 開いてみると、エメリアからだった。 『緊急自体です。大子宮おでんわを』 たった1行なのに、エメリアらしくもない誤字また誤字。 何事か分からないが、よほど切羽詰まっているに違いない。嫌な予感がする。 私はすぐに立ちあがり、大急ぎで教室を出た。教師が何か言ったようだが、耳に入るはずもない。 廊下で、すぐにエメリアの携帯に通話を入れた。1コールで彼女が出る。 『お嬢様!』 案の定、エメリアは錯乱状態に近かった。声の調子で分かる。 「落ち着きなさい。何があったの?」 私も思わず冷静さを失いかけたが、それでは会話が成立しない。努めて平静な声で、エメリアに問いかける。 『詩宝様が……屋敷の外に出られました』 「何ですって!」 聞いた途端、一瞬で私の頭に血が上った。もはや冷静さなど無用だ。大声で聞き返した。 「どうして!?」 『総日本プロレスの社長が会長に面会に来られて、帰りに詩宝様を……』 「お父様は、一体何をしていたの!?」 『それが……許可を出されてしまいまして……』 プツッという音が聞こえた。私の中で何かが切れたらしい。 思わず拳を壁に叩き込む。 コンクリートの破片が教室内部に散り、ギャーという悲鳴が多数上がった。 だが、悲鳴を上げたいのはこっちの方だ。 あの馬鹿父め。今、詩宝さんを1人で外に出すことが、どれだけ危険か分かっていないのか。 私がついていない間に、ゴキブリに襲われ、攫われでもしたらどうする気だ。 徹底的に、体に教え込んでやらないと駄目なのか。 いや。私は考え直した。 父を折檻するのは後でいい。今はとにかく、詩宝さんの身柄を確保することだ。 「詩宝さんがどこに行ったか分かる?」 『総日の、本部だと思います』 「分かったわ。すぐに学校に車を回しなさい」 『今向かっています! ソフィも一緒です!』 498 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/18(月) 01 08 45 ID nzeKkCQd 通話を切ると、鞄を取りに、私は教室に戻った。 何故か、教師と生徒が全員、机の下に隠れていた。 揺れは感じなかったが、地震でもあったのだろうか。 まあどうでもいい。例えマグニチュード8の地震でも、今の私の行動を変えられはしないのだから。 迎えに来た車に乗り、超特急で総日の本部を目指す。 到着すると、すぐさま3人で中に入った。事務員らしい男が何か話しかけてくる。 「何よ?」 振り向いて聞き返すと、相手は口から泡を噴いて失神した。何かの持病だろうか。 構っていられないので、そのまま社長室に向かう。すると、今度はプロレスラーらしい男が前に立ちふさがった。 「おい、ここは関係者以外立ち入り……」 邪魔だ。拳で顎を打ち抜いて沈黙させた。 それからも、やたら筋骨だけはたくましい男達が何人も私達を阻もうとしたが、そのたびに全て、私かエメリアかソフィが打ち倒した。 社長室のドアを蹴破ると、中で社長の長木が震えている。 「詩宝さんはどこ!?」 「あの、これは中一条のお嬢様。実は……」 ソフィは長木に近寄り、右手の人差し指を掴んで無造作にへし折った。 「ウギャアアアアア!!」 「ボスは、詩宝様はどこかとお聞きですけど?」 「ひいい……ま、ま、待ってください……」 ソフィは中指もへし折る。 「ギエエ!!」 「早く言いなさい。今なら靴の紐ぐらい結べるわよ」 エメリアが傲然とした口調で言うと、長木はようやく白状した。 「と、と、堂上の家ですっ!」 堂上晃。詩宝さんと一緒のクラスの、あいつか。 男だから、詩宝さんと会話するのを容認してやったのに、その恩を忘れて詩宝さんを連れ出し、あまつさえ自分の家に引っ張り込むとは。 何という恥知らずの輩だろうか。一度思い知らせてやらねばなるまい。 「行くわよ」 「はい」 「イエス」 失禁と脱糞を繰り返しながら気絶する長木を置き去りにし、私達は社長室を出た。 ビルの出口にたどり着くまで、数十人の重軽傷者が呻いていたが、当然全て黙殺する。 総日も、所属のレスラーが素人の女子高生に倒されたなんて公表したくないはずから、表沙汰にはならないだろう。 再び車に乗った私達は、堂上晃の家に殺到した。 インターホンを押したが、誰も出ない。留守のようだ。あるいは居留守を使っているのか。 個人の邸宅ともなると、私でも迂闊に押し入ることはできない。仕方ないので玄関から離れた場所に車を停め、様子を見ることにした。 499 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/18(月) 01 10 21 ID nzeKkCQd しばらくすると、また私の携帯電話が震え出した。 今度は電話だ。非通知である。 苛々していた私は、思わず電話口で怒鳴ってしまった。 「誰よ!?」 『ひっ! あ、あの……』 しまった。 詩宝さんの声だ。間違えようもない。ずっと聞きたかった詩宝さんの声。 詩宝さんの方から、わざわざ私に連絡を取ってくれたのだ。 それなのに、私はきつい口調で話してしまった。脅えさせてしまったようだ。激しく後悔するが、もう遅い。 私は慌てて取り繕った。 「え……詩宝さん? ご、ごめんなさい。非通知だから詩宝さんだって分からなくて……」 詩宝さんからの返事はなかったが、早く逢いたい私は、先を続けた。 『ずっと探しているんです! 今どこにいるんですか!?』 「あ、あの。それがですね……ちょっと病院に行ってまして……」 病院と聞いて、私は気が動転した。まさか詩宝さんが、病気にでもなったのではないかと思ったからだ。 詩宝さんが風邪をひいたと聞いたときでも辛かったのに、もっと重い病気だったら、私は正気を保っていられないだろう。 『病院!? どこか悪いんですか? だったらすぐうちの系列の病院に……』 「いえ、そうじゃないんです」 詩宝さんは否定する。でも、何だか苦しそうだ。 『詩宝さん?』 「そこで、検査してもらったら、いろいろお薬を飲まされてたみたいで……」 私ははっとした。 薬というのは、あの日お茶に混ぜて詩宝さんに飲ませた、媚薬のことに違いない。 詩宝さんは病気になったのではなく、病院でそれを調べられていたのだ。 おそらく、堂上晃に強要されて…… ともかく、私は弁明しようとした。詩宝さんならきっと、分かってくれる。 「あの、詩宝さん。それは……」 『それで、婚約のことなんですけど、一度白紙に戻してもらっていいですか? いや、別に、縁を切るとかじゃなくて、ゼロベースでもう一度考え直すと言うか……』 ガチャ 婚約の白紙撤回。 一番聞きたくなかった、ショッキングな言葉を残して、突然通話が切れた。 詩宝さんが自分で切ったというより、話している間に誰かに切られたような感じだ。 もちろん、堂上晃だろう。 婚約を白紙に戻すよう唆したのも、あいつに違いない。 私の中の、堂上晃に対する怒りはさらに倍加した。 大体、詩宝さんに媚薬を呑ませたからと言って、それが何だと言うのか。 詩宝さんがいくら媚薬を呑んでいても、私に“女”を感じていなければ、襲ってくれることはなかったはずだ。 襲ってくれたのは、私をメスだと認識していたから。 つまり、媚薬がなくても、詩宝さんと私が結ばれるのは既定事項だったのだ。 それなのに…… 「あいつ……生まれてきたことを、後悔させてやるわ」 「お嬢様?」 「ボス?」 エメリアとソフィが、青ざめた顔で私の方を覗き込んできた。 2人とも、今の会話で、ただならぬ気配を感じ取ったことだろう。 「詳しいことは、屋敷で話すわ」 私は一度屋敷に戻ることに決め、車を出させた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2765.html
524 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 22 35 ID bYnTMqNY [2/12] 高校2年 10月 早朝。 夏が過ぎ去り秋になったこの季節だと少し肌寒さを覚える時間だ。 日課である弁当を作り終えた僕は珍しく誰もまだ起きていない不知火家を出るや否や面を食らうこととなった。 「おはよう、遍」 凜とした佇まいで玄関前に居たのは高嶺 華、僕の彼女であった。 僕の姿を確認するやいなや微笑みながら挨拶をしてきた。 「…おはよう。待ち合わせの場所ここじゃあなかったよね?」 つい先日のこと兎にも角にも恋仲となった僕らだがやっかみを恐れた僕が提示した『放課後のみ』、という関係に不満を覚えた彼女は代わりに誰もいない早朝の登校を共にするという条件を提示してきた。 それならばと了承した僕だったが前日のメールでのやりとりで決めた待ち合わせ場所とは違う場所に彼女が現れたものだから面を食らうのは少々仕方のないことだった。 「うんっ。でもね、1秒でも早く遍に会いたくて来ちゃった」 その台詞に歯が浮くのを感じざるを得ない。 「たか…華に僕の住所教えたことあったかい?」 「前に遍にこっそりついていったことがあるから知ってたんだぁ」 「そ、そうなんだ」 時々顔を覗かせる彼女の非常識。 鮮やかな絵画に付着した汚れのように彼女のその非常識は高嶺 華という像よりも遥かにそれは強く印象を焼き付ける。 ついこの間まで邂逅するだけで心弾ませた彼女と恋仲になったというのにも関わらず未だ手放しで喜べないでいる理由がそこにある。 「じゃあいこっか」 閑静な住宅街に二人の足音が鳴り始める。 しばらくの間二人の間に会話はなく静寂が訪れていたが、趣味も境遇も似つかない僕らならば話題の提供に困るのも当然のことだった。 そもそもの話僕自身、あまり人と話すのが元々不得手ということもある。 だからこの静寂を打ち破るのは彼女が先というのも当然のことだった。 「私たち本当に恋人に…なったんだよね?」 「え…あぁそうだね。どうしたんだい急に」 「だって遍、放課後じゃないとイチャイチャしちゃダメって言うんだもん。酷いよ」 了承したとはいえ未だに不満には思っているらしく、口を尖らせる。 「我儘を言っているのは重々承知しているさ、でも僕ら男子の間では華は可愛くて有名だからそうなると僕も目立ってしまうんだ。あまり目立つのは苦手でね」 「…もっかい言って」 「え?」 「もう一回。可愛いって。そう言って」 「か、可愛い」 改めてその部分を切り取られてあげられると羞恥心が込み上がってきた。 我ながらなんて気障な台詞を口にしたのだろうか。 彼女は満足げな表情を浮かべるとそっと僕の左腕に抱きついてきた。 「今はそれで許してあげる」 脳がショート寸前だ。 「そ、そういえば文化祭。僕らのクラスは喫茶店になったね」 恥ずかしさに耐えられず無理矢理話題を変える。 「そうだねぇ。遍はどの役割担当したいか希望はあるの?」 「僕は看板製作とか担当できたらいいなとは思っているけども」 開催まであとひと月を切っているのであるのだが喫茶店、ということのみ決まっているだけで役割担当は決まっていない。 「じゃあ私もそうするっ。そうすれば遍にイチャイチャまではいかなくてもお話はできるしね」 なんとなくだがそう言うと思っていたが、そんなことは口にはしない。 「喫茶店かぁ…。そうだ遍、また『歩絵夢』行こうよ。陽子さんになら私たちのこと報告していいでしょう?」 「え?まぁたしかにそれは構わないけれども…」 どうして一体全体彼女はそこまでして周囲に僕らの関係を示したがるのかが分からなかった。 「でも華は多分、接客の係につかされるんじゃあないかなあ」 「えぇぇ、何でよぉ」 自分がどれほどの人望美貌があるのか一体把握しているのであろうか? 「僕はそっちの方が向いていると思うし、それに僕だけじゃあない。クラスのみんながそう思ってるんじゃあないかな」 「嫌よ、私遍と一緒にいたい」 「ははは…そこまでするほど僕と一緒にいて楽しいのかい?」 「うん。でも楽しいとかだけじゃないよ。全てが私に噛み合う感覚があるの。この世で最も一緒にいて落ち着く人だよ」 「未だに信じられないよ、たか…華と付き合ってるなんて」 「わたしだって嬉しすぎて信じられないくらいだよ」 するりと僕の腕から離れると一息吸って彼女は続けた。 「末長く、よろしくね」 なぜだか分からないけれどもその一言で背筋が凍る感覚が僕を貫いた 525 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 23 51 ID bYnTMqNY [3/12] ーーーーーーーーー ーーーーーーー ーーーーー ーーー ー 「えええ!華ちゃん看板製作やるのぉ!?」 一先ず何事もなく授業を終え、帰りのホームルームになる直前のこと。 クラスメイトの女子たちが何やら騒ぎ出した。 「絶対華ちゃんは接客のほうがいいよ」 「私接客とかやったことないし…、向いてないよー」 如何にも謙虚な態度で真意を覆い隠す高嶺さん。 「絶対絶対絶対向いてるってぇ」 「私もそう思うよ~~」 「そんなことないってばぁ」 やいのやいのと騒ぎ立てる女子生徒達の声に黙って聞き耳をたてる者、聞いていないフリをしつつも耳だけはしっかり向けている者様々だが大半の男子生徒達が意識を割いていた。 そんな見ていて少々おかしな状況を変えたのは担任の太田先生の入室だった。 「ほら騒いでないで放課後のホームルームやるぞー」 自由の時間を体現していた生徒達は各々を席へと徐々に戻ってゆく。 「それで今日のホームルームなんだがなぁ。文化祭の役割分担を素早く決めたいと思う。うちのクラスは喫茶店をすることになったがそれを決めるのに時間がかかりすぎてしまったみたいでな、残された時間が少ないんだ。では早速決めていくぞ」 太田先生は白のチョークを手に持つと手早く分担される役割とその定員を書き込んでゆく。 その手で書かれた最初の役割は問題の『看板製作係』と3という数字であった。 「…では第一志望の役割の時に手を上げてくれ。まずは看板製作係な。これが第一志望のものは挙手」 やはりというべきなのかその定員を遥かに超える人数の生徒が手を挙げる。 その中にはもちろん高嶺さんもいる。 彼女はチラと一度僕の方へと視線を移す、たったそれだけのことだが彼女の意図は容易に汲み取れる。 僕も静かに手を挙げる。 「おお…思ったより人が多いなぁ。でもちゃっちゃと決めてしまいたいからジャンケンで決めようか」 太田先生は握りこぶしを宙へ挙げる。 それにつられるように僕たちも握りこぶしを宙へと挙げた。 526 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 24 59 ID bYnTMqNY [4/12] 「勝った人だけ残りなさい。ではいくぞ。最初はグー、じゃんけん…」 僕は握りこぶしを開いた、先生は握りこぶしを開かなかった。 運良く僕は勝利することができたようだ。 「おお、ちょうど三人残ったのか」 周りを見渡すと握りこぶしを開いた人物は僕を除いて二人しかいなかった。 「じゃあ看板製作係は桐生、小岩井、不知火の三人で決まりだな」 その中に彼女は含まれておらず彼女はただまっすぐ前を見つめながら拳を握り続けていた。 「じゃあ早速だが3人は集まって後ろで話し合っててくれ。では次は装飾係が第一志望のものー」 言われるがままに僕は席を立ち上がり教室の後ろへと向かう。 高嶺さんが少し気になる。 「よ、残念だったな!」 意識をほかに取られている僕の肩を叩いてきたのは同じ看板製作係の桐生 大地(きりゅう だいち)くんだった。 端正な顔立ちで女子生徒からの人気も高い。 これが僕の桐生くんへの印象。 「ざ、残念ってなんのことだい?」 「そのまんまの意味だよ。高嶺の花と一緒になれなくて残念、ってね」 夏祭りの時にみっともない嫉妬を向けていた手前、いざ対面すると苦手意識が全身を縛り上げた。 「な、僕は別に高嶺さんが希望していたからってこの係を希望したわけではないさ」 「でも高嶺が参加したいって意向はちゃっかり聞いてたんだな」 聞き耳を立てずとも僕はすでに今朝からその意向は知っていた そう言いかけるが寸のところで止める。 527 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 26 59 ID bYnTMqNY [5/12] 「そういう桐生くんはどうなんだい?」 「俺?俺はもちろん彼女目当てさ」 心臓に冷や水がかけられる。 この感覚何週間ぶりだろう、しばらく前まではよく彼女に与えられていた感覚によく似た感覚だ。 僕が言葉に詰まっていると桐生くんは頬を釣り上げ笑い声をあげる。 「あははは!うそうそジョーダンだよ。そんなマジになるなって。俺彼女いるしなっ」 面を食らう。 「よろしくな不知火」 「ふたりとも~遅くなってごめんねぇ~~」 遅れてやってきたのは小岩井 奏美(こいわい かなみ)さん。 穏やかな女子生徒であり、高嶺さんの仲の良い友達。 これが小岩井さんへの印象。 「おう、小岩井も来たし早速どういうふうに進めていくか決めようか」 「うん、そうだね~」 桐生くんは流れるように場を仕切り出した。 素直にこういう一面を凄いと思うし羨ましくも思う。 僕がそういうことができるイメージはあいにくだが浮かばないから。 「んじゃまずこん中で絵、描けるやついるか?」 僕は右に左に一度ずつ首を振る。 「わたし少しなら描けるよ~~」 「お、助かる!俺もあんまし絵は得意じゃないからな。じゃあ小岩井は下書き頼まれてもいいか?」 「うん、いいよ~~」 桐生くんは場を仕切れる、小岩井さんは絵が描ける。 じゃあ僕は? 途端にみっともない劣等感に苛まれる。 「それじゃあ色塗りは俺と不知火で協力してやる感じになるのかなぁ」 「あの~」 恐る恐るといった感じで声をあげる小岩井さん。 「どうした?」 「絵は少し描けるけど字は下手なの~」 「あれ、そうなの?こういう大きい看板の文字だから字の上手い下手というよりかは絵の上手い下手かだと思うけどなぁ」 「でも上手な人が下書きを書いた方がいいと思う~」 「そっか。んじゃ不知火、お前書いてみる?」 「え?」 「いやぁ、申し訳ないんだけど俺も字は下手なんでさ」 「えっと…それじゃあ僕も自信があるわけじゃあないけどやってみるよ」 仕事が与えられる分には有難い。 役立たずにはなりたくないという思いもあり承諾をする。 「あとはいつ作業するのかって話だけど委員会とか部活とか入ってるやついる?」 今度は小岩井さんも一緒に首を左右に振る。 「まぁ俺はサッカー部あるけど多分頼めば休ませてもらえるしとりあえず三人でサクッと放課後に作業するか」 「桐生くん部活ある日は部活をやってもいいんだよ~~」 「いや、二人にやらせて自分だけ部活やるってのも申し訳なくて多分練習に集中できないし大丈夫だ」 「え~いいのに~~」 「まーまー気にすんなって。それにそんなに練習したけりゃ別の係立候補してたしな」 少しだけ悪戯な笑みを浮かべる桐生くん。 「不知火もそんな感じでいいよな?」 「うん、それで異論はないよ」 「うしっ、それで決まりだな。他の係の方も決まったみたいだぞ」 黒板の方へ視線を向けるとどうやらそのようであった。 「おーとりあえず全員の係決まったから看板製作の三人も席に戻って来てくれ」 太田先生の言う通りに僕らはそれぞれの席へと戻っていく。 528 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 29 08 ID bYnTMqNY [6/12] 「ひとまず係の振り分けが終わったわけだが手の空いてる人は積極的に作業している人の手伝いをするようになー」 クラスメイトたちの先生のボランティア催促への不満は「えー」という二文字が表現していた。 「同じクラスメイトなんだから助け合いは大事だぞ。あまり文化祭まで残り時間もないし今日のホームルームはここまでにする。号令」 号令係の元、僕らは一連の動作を行う。 「「「ありがとうございました」」」 クラスメイト達が散り散りになる中で自然に僕ら看板製作係の三人は再び集まると、太田先生も僕らの元へと歩いてきた。 「看板製作はこの三人でよかったよな?」 「「はい」」 返事をしたのは僕と桐生くん。 「それでなんだがなぁ、看板の材料は用務員室にあるんだ。私はこれから会議だから手伝えないのだが大丈夫か?」 「大丈夫ですよ、俺たちで取ってくればいいんですよね?」 「ああ、ありがとう。ただ看板の板は少々重たいので気をつけること」 「了解です。そんじゃ不知火は俺と看板運ぼう。小岩井は持ち運べそうな小物を頼むよ。それでも運びきれなかったら何度かに分けて運ぼう」 「わかったよ~」 「う、うん」 桐生くんはリーダーシップを発揮し滞りなく物事を運んでいっている。 これが桐生 大地。 僕の彼女に、高峰さんに本来ふさわしい器の男子生徒。 同じ男として劣等感と尊敬を感じざるを得ない。 いや、こうやっていつも惨めな気持ちになるのは僕の悪い癖だ。 僕は桐生くんになれやしないし、その逆も然り。 それを個性というのではないか、そう自分に言い聞かせる。 「後は三人ともよろしくな。あまり遅くならないように作業しなさい。それと怪我をしないようにな」 「「「はい」」」 太田先生はそう言い残すと少し忙しない足取りで教室を後にした。 「さてと、俺らも用務員室に行くかぁ」 「そうだね」 僕らも用務員室へ材料を受け取りに教室を後にしようとする。 「かなみぃ~!」 「わ~~」 529 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 30 15 ID bYnTMqNY [7/12] 振り返ると小岩井さんを後ろから高峰さんが抱きついていた。 「ひどいよー奏美。私も看板係やりたかったのにぃ」 「そんなこといったってじゃんけんだから仕方がないよ~~」 「ずるい~」 側から見ると女子生徒達のコミュニケーションといった感じであった。 だが一瞬、刹那とも呼べるその短い瞬間に高峰さんの両の眼は僕を捉える。 「『私たちの仲なんだから看板係を辞退して私と一緒の係になってくれたってよかったじゃん~』」 普通の人が聞けばただの仲の良い友達へと向ける言葉に聞こえるだろう。 だが違う。 きっと今の台詞は僕に向けたものだ。 「え~~、辞退してもみんなが混乱するだけだよぉ~」 「えー、そうかなぁ」 今度の高峰さんの両の眼は瞬間ではなくゆっくりと確実に僕らを、僕を捉える。 まるで蛇に睨まれた蛙。 「ねぇ二人ともそう思うよねぇ?」 「いやぁ小岩井はなんも悪かねぇだろ。恨むんだったらじゃんけんに勝てなかった自分を恨むんだなー」 「あーひどい!そんな言い方ないんじゃない桐生君?」 「だって事実じゃんか。な、不知火?」 「い、いやぁどうだろうね…」 僕に聞かないでくれ。 「ふぅん…。…看板係はこの三人なんだよね?」 「そうだけどそれがどうしたん?」 「だったらさ、私も看板係手伝うよ。どうしても看板製作やりたいのっ」 やっとここで彼女の目的に気がついた。 高峰さんは築こうとしているのだ、僕と彼女の『表』の関係を。 「いいけど高峰は自分の仕事とか大丈夫なのか?」 「私は結局接客係になったし当分は仕事とか練習とかないから大丈夫だよ」 「そっか、ならまぁお言葉に甘えようかな」 「華も手伝うんだ~、わ~い」 「じゃあよろしくね?奏美、桐生君…」 高峰さんは一人一人目を合わせ名を呼びそして最後に僕に目を合わせ 「…不知火君」 聞き慣れたはずなのに随分と久しく感じるその呼称を僕へと言い放った。 530 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 31 49 ID bYnTMqNY [8/12] ーーーーーーーーー ーーーーーーー ーーーーー ーーー ー 「んーもう6時か。そろそろ切り上げるか」 用務員室から材料を受け取り2時間程作業を進めたところで桐生くんは作業の終了を切り出した。 「ほんとだ~すっかり暗くなってるね~」 「先生にも遅くなるなって言われてるし頃合だろ」 高峰さんが手伝いを申し出たその後、何人かの男子生徒も手伝いを申し出ていた。 しかし効率が悪くなるからと桐生くんはそれらを拒否した。 「とりあえず片付けられるものは片付けて板は後ろの方に置かせてもらおう」 「分かったよ」 僕ら四人は作業の後始末をこなしてゆき看板製作の初日を終えた。 「よしっ、とりあえずお疲れさん。明日もこんな感じで作業進めよう」 「は~い」 「うん」 「はーい」 僕らが返事をすると桐生くんは気まずそうな表情を浮かべ一瞬言葉に詰まったような様子のあとそのまま続けた。 「それとだな、高峰。明日からは手伝わなくていいぞ」 「…え?」 「いや高峰が手伝ってると男子たちがこぞって手伝いを申し出てくるんだよ。看板製作ってそんな大人数でやるものじゃないし、かといって高峰だけ手伝うってのも不公平な話だろ?」 「そん…な、わたしはっ」 「なんと言おうとダメだ。これはクラスの男子たちのためでもあるからな」 ギリィ 歯軋りの音が僕らの鼓膜を揺らすとその後彼女はひったくるように自分の鞄を手に取り教室素早く出ていった。 「…まさか高峰があんなに怒るなんてな。思ってもみなかった」 「華どうしたんだろう~」 桐生くんと小岩井さんは唖然とした表情を浮かべる。 突然、右ポケットに入っている携帯電話が震える。 送信者と要件を想像するのは難しくない。 「わたし後を追いかけてみるね~。二人とも今日はお疲れさま~」 「おうお疲れ様。高峰にあったら一言謝っておいてくれ」 「わかった~。ばいば~い」 小岩井さんも小走りで教室を後にした。 531 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 32 51 ID bYnTMqNY [9/12] 「ふぅ…。悪かったな不知火」 「え?」 「いや高峰を追い出すような形にしちゃったからな。好きなんだろ?高峰のこと」 「へ?いやっ、別に僕は!」 思ってもみなかったことを言われ僕の脳はぐるりと一回転する。 「ははは別に隠さなくてもいいって。というか作業中あれだけ高峰のこと見てたら誰でも気づくよ」 赤面する。 筒抜けになるほど高峰さんのことを見ていたという事実とその事実をまったく知り得ていたなかった自分の愚かさによる羞恥心で胸がいっぱいになる。 「応援してやりたい気持ちもあるけどよ、でもそれはフェアじゃないだろ。程度に差はあれあいつに想いを寄せている男子は大勢いるんだから」 「…たとえ彼女と一緒に作業していても僕はきっと一歩も踏み出すことはなかったと思うよ」 「そんなネガティヴになるなって。フェアじゃないなんてかっこつけて言ったけどさ、ようはあいつをめぐって喧嘩とか、いがみ合いとかそういうのをうちのクラスでして欲しくないってことさ」 「どういうことだい?」 「どういうこともなにも折角同じクラスになった仲間だなら皆んなが皆んなを大切に思える、そんなクラスで高校生を終えたいんだ。…綺麗事だよな」 桐生くんは少し恥ずかしそうに笑う。 どうやら立派なのは容姿や能力だけではなく、志もそのようだ。 「桐生くんは凄いや。本当によく周囲を見ているんだね。僕は自分自身だけで精一杯だ」 「いやいやそんな大層なことじゃねーって。ただクラスメイトが仲良しこよしして欲しいっていうただの我が儘だからな」 「ならそれは素晴らしい我が儘だね。…僕はそう思う」 「なんかそう言われると照れるな…。恥ずかしいから誰にもいうなよ?」 今度はどうやら彼に羞恥心を抱かせられたようだ。 先ほどの反撃できたような気がして小さな自分が大きく満たされる。 「言わないよ」 「おうさんきゅ。あとは戸締りなんだけどそういや施錠係って誰だっけ?」 僕はポケットから教室の鍵を取り出して桐生くんの前にかざした。 「僕だ」 「お、そうだったのか。じゃあこれで教室の戸締りはできるな」 「戸締りは僕がやっておくから桐生くんは先帰ってても大丈夫だよ」 「遠慮すんなって。別に手伝うくらい平気さ」 「遠慮なんかしてないさ。戸締りの他にも用事があるからね。少し時間がかかると思うから先に帰ってもらえた方が僕としては助かるんだ」 「あぁそういうことなら、…分かった。それじゃあ後はよろしく頼むな」 「うん」 「また明日な、不知火」 「お疲れ様、桐生くん」 彼は鞄を肩にかけると軽い足取りで教室を出ていき残されたのは僕一人となった。 静寂が教室を包むと途端に疲労が押し寄せてきた。 作業、慣れないコミュニケーション、それらが思っていた以上に僕には負担になっていたようだ。 要領の悪い自分に自嘲の笑いを浮かべながら自分の席へと座る。 532 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 34 16 ID bYnTMqNY [10/12] そういえば、と先ほど震えた携帯電話の中身を確認する。 ーーーーーーーーー 差出人 高嶺 華 件名 なし 本文 教室に残ってて ーーーーーーーーー たったそれだけの文章だった。 それを確認し携帯電話を折りたたむと背後から突然誰かに抱きしめられる。 「遍…」 誰かに、なんて思ったが少し考えればそれが高嶺さん以外にありえることはないということに気がついた。 「華…小岩井さんが君のこと心配して追いかけていったよ」 「知ってる。でも今はあなたを感じる方が大切なの」 僕を抱き寄せる腕の力が徐々に強まってゆく。 「どうして?どうしてなの?私は遍とただ一緒にいたいだけなのに」 その時肩に伝わる湿った感覚が彼女が泣いているということを僕に教えた。 「ねぇ遍?わたしのこと…すき?」 「え?」 「わたしまだ一回も聞いてない、遍の気持ち」 僕の気持ち。 僕は彼女のことをどう思っているのだろうか。 確かに僕は彼女に恋がれていた。 じゃあ今は違うのかという質問に対しては僕はNOと答えるが一つ言えるのが彼女への気持ちが少し変化していることだ。 それはなぜなんだろう。 怒りを構わず友人たちにぶつける所を見たから? 違う。 僕の住所を尾行して割り出したことを言われたときか? 違う。 彼女に暴力的な告白をされたときから? …多分もっと前、今ならわかる。 夏祭りの時の別人のような彼女を見てから僕はきっと彼女を慕う気持ち以外の気持ちが芽生え始めたんだ。 あまりに恋い焦がれたから僕はありもしない手前勝手な『高嶺の花』を想像し空想し妄想していた。 彼女だって人間だ、時には泣いたりもするし怒りもする。 理想を、虚像を勝手に作り上げ僕は本当の彼女のことを理解しようとしてなかったのではないだろうか。 僕を締め付ける腕の力が一層強まる。 「好きだよ」 「!」 「でも僕は華のこと全然分かってないみたいだ。だから少しずつでいい。知りたいんだ、華のこと」 これが僕の今の気持ち。 きっと混乱しているだけだ。 彼女ほど魅力的な女性はそうはいないしきっとそれほどの女性が僕なんかと恋仲になってくれることなんてもう一生ないだろう。 「…嬉しい。私も好き、愛してる」 ちゃんと彼女と向き合おう。 心の底から君を愛せるように。 533 名前:高嶺の花と放課後 第8話[sage] 投稿日:2018/06/29(金) 11 34 54 ID bYnTMqNY [11/12] ーーーーーーーーー ーーーーーーー ーーーーー ーーー ー 「わぁ、小岩井さん絵上手だね」 「えへへ~、そうでもないよ~」 ねぇどうして? 「どれどれ?うお本当に上手いな!」 私は誰よりもあなたのことを求めているのに 「二人とも大げさだよ~~」 「不知火の書いた字も綺麗だしなんだかんだおれらの看板の完成度かなり上の方じゃないか?」 「ははは、僕の字はそんなに褒められるほどのものじゃあないと思うよ」 彼の字が綺麗なことくらい私はずっと前から知っている 「ううん~、不知火くんは字綺麗だよ~~」 「…なんだか小岩井さんの気持ちが少しわかった気がするよ」 彼の瞳に私は映っていない 「なんだよ?小岩井の気持ちって」 「あんまり褒められるとなんだか気恥ずかしいってことさ」 その照れた表情も 「なんならもっと褒めてやろうか?」 「そろそろ勘弁願いたいかな…ははは」 その困ったような笑顔も私のものなのに 「二人とも~おしゃべりはそこまでにして作業しようよ~~」 「ああ、ごめんごめん」 なんで私じゃない人に向けているの? 「そうだ!今日作業に使えそうな道具持ってきたんだった。ちょっと二人とも作業進めといてくれ」 「分かったよ」 「分かった~」 なんで私はここまで我慢しなきゃいけないの? 「さてと、じゃあ絵のほうまたお願いするよ小岩井さん」 「まかせて~」 ねぇ… 「じゃあ僕はもう少し修正できそうなところをやってみようかな」 「うんよろしくねぇ~」 どの面下げてそこに、私の愛する人のそばにいるの 「あ!揺らさないでよ小岩井さん」 「あはは~ごめんね~~」 …奏美?
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1142.html
病的な彼女ら 1話 病的な彼女ら 2話
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2086.html
715 :日記 :2010/11/07(日) 17 40 58 ID dcDaU3VN 7月15日 学校ニテ告白サレタ。キク子トイフ女子デタイソウ美シク、学校ノナカデモ非常ニ 人気ガアリ、友人ノ岡村君モ桜花ノ如ク散ッタ女子デアル。 ワタシハ嬉シク思ッタガ照レ臭ク、「イイヨ」トシカ言エズ。 7月28日 キク子ハ最近ワタシノ傍ヲ離レヤウトシナイ。 「嫁入リ前ノ娘ガ男ノ家ニ入リ浸ッテイルノハヨクナイ」ト言フトキク子ハ、笑ヒテコウ言ッタ。 「アナタノ妻ニナルベキ女ニ、ソノヤウナ気遣ヒハ無用ナリ。」 ドウヤラキク子ハ妻ニナルツモリラシイ。キク子ノ父母ハ心配シナイノデアラウカ。 10月19日 目ガ覚メルト、キク子ガ裸デ蒲団ニ入ッテ居タ。訳ヲ問ウト恥ラヒテ、顛末ヲ語リヌ。 ドウヤラ過チヲ犯シテシマッタヤウダ。 「曾爺ちゃん、今の俺も似たような状態なんだが・・・・・・助けてくれないか。」 「無理じゃよ。一度そうなったおなごはもう止められん。あきらめろぃ。」 「彼女いい娘じゃないか、何故そう嫌うんだい。あの娘ならあんたが死んでもなお愛してくれるぞい。」
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1230.html
352 :良家のメイドさん 後編 (1/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/24(金) 21 08 55 ID ykeltbix 「夜分遅くにこんばんは。ごきげんはいかが?」 私は、電話の向こうの彼女に、問いかける。 「まあまあですね。そちらこそ、お変わりないようで、なによりです」 彼女も、電話越しの私に対して、答えを返してくれた。 ええと……、面倒だけど、やっぱり私も、自己紹介をするべきなのよね? 私は玲(れい)。とある名家に嫁ぐことになった、中流家庭の小娘です。 正直なところ、今回の結婚には私、断固として反対していたんだけどね。 見事に母さんに嵌められて、超盛大な挙式まで挙げちゃったわけで……。 「そちらの首尾はどう? ちゃんと愛しの彼に、真実を伝えられたの?」 「そちらこそ、溺愛する弟さんに、自分の気持ちを伝えられましたか?」 電話越しに、似たような質問を返す、私と彼女。 仲が悪いわけではない。むしろ、こんなやりとりができるということは―― 「よろしい。お互い成功したみたいね。お疲れ様です、冥さん」 「いえいえ。つつがなく成功しました。お疲れ様です、玲さん」 そう、私たちはいろいろあって、互いの恋のキューピットをやることになった。 なんとも馬鹿げているが、いろいろ利害関係が一致しての結果だ。 私は、見合い結婚の相手である良家の坊ちゃまではなく、実の弟を愛していた。 彼女は、私の結婚相手である「坊ちゃま」に、15年以上も想いを寄せていた。 ちなみにその間、私の弟は全く関係ないところで、のうのうと学生をしていた。 図で表すなら、“冥→土方→玲→晴(せい)”といった感じの片思い。 ……考えてみると、コレはあまりにも、不毛な一方通行の愛憎劇だわ……。 そんなわけで、私と彼女は、利害の一致により協力することにした。 正確にいうと、私は彼女に、彼女は私に成りすますことにしたのだ。 こんな無茶な作戦を始めたのは、5ヶ月前の夜。 私のヒミツを彼女に見られた、あの時まで遡る。 353 :良家のメイドさん 後編 (2/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/24(金) 21 11 05 ID ykeltbix 「きっ――貴様ああぁぁぁぁっ!? 坊ちゃまに、何をしているんだあああぁぁぁぁ!?」 激昂と絶叫とともに、襲い掛かってきたメイド姿の女。 私は慌てず、もう片方の手に隠していた、もう1つの懐中時計を向ける。 確かこの技術は、興奮している相手には、通用しにくいはずだけど―― 「…………っ!? な、なんですかコレは!?」 よし、なんとか固定に成功したようだ。 正直ギリギリだった。私の首に、彼女の爪が食い込む直前だったのだ。 「ふう……、さすがに死ぬかと思ったわ~。 ところであなたは確か、彼と一番仲のいいメイドさんだったかしら?」 そうだ。彼女の顔にはとっても、見覚えがある。 そこで寝ている私の夫(らしき人)に、いつも付き従っているメイドだ。 「答え……てく……ださい、若奥様。あなたは何を……なさっているのですか……? あなたは……自分の夫――私の坊ちゃまに、危害を加える……おつもりですか?」 身体を意識レベル――正確には脳から神経のレベルで封じているんだけど―― そんなことには一切興味がないように、私を睨みつけてくる彼女。 この殺意と攻撃性は、ただの雇い主と使用人の関係で出るものじゃない。 強いていうなら、弟に寄り付く害虫を、薙ぎ払う時の私みたいな―― 「ああ、そういうことか――そういうことね。 あなたは、いまそこで寝ている彼に、恋しているってワケなのね」 私の言葉に、明らかに動揺をみせる、メイド姿の女。 もう何も言わなくても、その反応だけで充分だわ。 「まったく、この男も罪なヤツね。こんな美人を惚れさせといて、私を選ぶとは――」 「当然です。私はわざと、坊ちゃまにこの気持ちを知られないようにしていたんです」 ううむ……。本当に、使用人の鑑のような娘だわ、この人。 でもね、そんな感情なんて、いつまでも隠せるはずがないでしょうに―― ああそうだ、いいこと考えついちゃった。 「ねえ。そんなあなたに、協力してほしいことがあるの。 断るかどうかは、私の話を聞いてから判断してくれない?」 354 :良家のメイドさん 後編 (3/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/24(金) 21 16 11 ID ykeltbix 「――わかったわ、冥さん。 もうすぐせいきゅ――晴くんが目を覚ますみたいだから、あとは手筈通りに」 「了解しました、玲さん。 こちらも、もうすぐ土方さまが起床されそうなので、ご指示の通りにします」 「ええ、それではあなたに、永久の幸福がありますように」 「はい、あなたにも、永き恋の祝福があることを祈ります」 こうして私と彼女は、互いを繋ぐ携帯電話の通話を終結させた。 私のとっておきの技術――『操心法(そうしんほう)』。 意識から人間を操作する技術で、催眠術や強制暗示を実戦レベルに高めた技術。 ウチのろくでなしの父さんが、失踪する前に教えてくれた、唯一の忘れ形見。 そういえば、晴くんには父さんのこと、「亡くなった」って伝えたっけ。 もっとも、私のこれに関する習得率はいまいちで、そんなに自由には行使できない。 まず、懐中時計みたいな、一定のリズムを刻む音や光景を与えないと、操作できない。 そして、私にはせいぜい、相手の肉体運動を操作する程度のことしかできない。 あとは、相手にこちらの意図する夢を見せて、それを現実と誤認識させるくらいか。 最初から相手の記憶や意思を操作できてたら、結婚式自体を破談させられたんだけどなぁ。 愚痴が長くなりそうなので、この辺で。 とにかく、私はこの技術を使って、寝室での「行為」を一切回避させてもらっていた。 部屋の外には、自分が晴くんを思って自慰した時の「音声」を響かせてごまかした。 相手に夢の中とはいえ「犯されている」と考えると、殺意が沸いてしまうが、仕方が無い。 私は最初っから、晴くん以外には貞操を許す気はなかったから。 私は晴くんが生まれた時から、ずっと晴くんを愛していたのだ。 いまさら他のどこかの誰かに、身を許すつもりなど、毛頭ない。 結局十数日ほどでバレたけど、最初に気づいたのが冥さんで、本当によかった。 彼女は私と利害が一致したので、口八丁手八丁で、こちらに協力してもらえたのだ。 特に、入れ替わりの際の変装が楽だったのが、一番のもうけものだった。 なんせ彼女、髪を下ろして眼鏡をコンタクトに変えたら、結構私にそっくりだったもの。 いっそ整形を覚悟していた私としては、これ以上ない偶然だった。 355 :良家のメイドさん 後編 (4/4) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/24(金) 21 17 56 ID ykeltbix ともかく、こうして無事に、互いの変装は完了した。 次に口調や仕草に関してだけど、こちらもあまり問題はなかった。 私はもともと、晴くん以外には外面モードで対応していたから、真似をするのは容易だった。 冥さんのほうも、普段から敬語を使っていたから、私の外面モードの真似は楽だったそうだ。 そんなこんなで、ほぼ完全に入れ替わった私たちは、それぞれの恋を叶えるために奔走した。 まずは、冥さんになりすました私を、私の実家――晴くんの許へ派遣する手続きをとった。 こうして、冥さんと「坊ちゃま」、私と晴くん、それぞれの愛し合う土台が完成した。 さらに勢いと今後のために、妊娠しちゃうところまで、関係を深めておいた。 ついでに冥さんにも、私の『操心法』を、1から覚えてもらった。 いざという時に微調整ができるように、と考えたのだが、意外にも出来がよくてビックリした。 正直なところ、計画の前倒しができるくらいに、彼女は立派な『操心法』の使い手になった。 そう、実はここ4ヶ月くらいで、私たちは記憶や意思の操作ができるようになったのだ。 人体実験も完了してあるので、実践することにまったく支障はない。 ちなみに被検体のみなさんは、メイド姿の私目当てに集まってきた、晴くんの友達連中だ。 とにかく、ここまで来たら、私たちの計画も最終段階だ。 あの「坊ちゃま」と結婚したのが、冥という名の女性だと、屋敷内外の全員に認識させる。 そして、私が晴くんの恋人であることを、親族や知人全員に認識させる。 その他の関係者に疑う連中がいたら、その時は私たちが直接、記憶操作してやればいい。 よし、まずは目の前にいる、晴くんの心を操作することから始めようか。 「さあせいきゅん、あなたにまた、夢をみせてあげる。 目が覚めたときには、あなたはもう私の恋人の座から、逃げられないわ♪」 ――これでようやく、みんな幸せになれる。これからは4人――いえ、6人とも幸せになろうね?
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2574.html
217 :一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06 20 42 ID D9NA27bk 「また散らかして。駄目だよ、ナオ君。」 そう言いながら、部屋の中を見渡す。一人暮らしに必要な物だけしか置けない位狭いが困る事はない。 浴室からバスタオルを持ち出し彼女に手渡す。ありがとうと言うとバスタオルに顔を埋めた後にようやく髪を拭きはじめる。服はあっちにあるよと指を差し着替えるよう促す。 謝罪する気はあったみたいだがそれも所詮、言葉だけのものであろう、部屋に入った瞬間、切迫していたものも無くなり元の鞘に収まったかのように落ち着きや恋心が出始めた。 彼を好きになったのは小学2年生の時でそれも給食時だったのを今でも覚えている。あの頃の私は病弱であまり食べる事も出来ずいつも残してばかりであったが、悲しいかな、その時の周囲の目は冷たく、給食を残す事はいけないのだと刷り込まれていたみたいで、その空気に馴染めず、彼女はとうとう吐いてしまった。 周りの目が更に冷たくなるなか、彼だけは自ら「私の」吐瀉物を掃除してくれて、大丈夫?と心配までしてくれた。 彼の純粋な優しさに触れて、恋をした。 彼だけが私を見てくれて、話しかけてくれて、聞いてくれて、触れてくれて、想ってくれて、今にして思えば孤独が嫌で優しいナオ君なら構ってくれるから一緒にいたのかもしれない、けど、もうどうでもいい。 これは間違えようもない恋だと胸を張って言える位に私を占める者は後にも先にも彼だけだ。 218 :一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06 23 09 ID D9NA27bk そう、だから高校で出会ったのも運命なんだと確信した。 病弱なせいで環境の良い場所へ転校させられて告白も出来ず初恋は散った。 それからの日々は退屈でただただ受動的な生活をしていたと思う。中学生にもなると病弱な体質は克服し、その頃には友達も出来はじめた。それでも心の空白は埋まらず、日々ナオ君との生活を夢想しては一人で慰める。そうすると空白は無くなって、また空白が出来ると慰める。 頭の中で彼女たちの関係は既に夫婦にまで進んでいて子供は女の子が一人、裕福とは言い難いがそれでも幸せな毎日を送っていた。 高校生になってからの夢想は更に酷い物になっていき、彼女のモノである証が欲しくなりはじめ、拉致監禁、調教、凌辱、入れ墨、あらゆる証をナオ君に刻みつける事に夢中になっていた。 「誰にも言わないって約束したのに……なんで言っちゃうの?それもナオ君に!」 「あんたこそ、何であたしに見せたの?ナオには誰にも見せないって約束しといて…それって、あたしに見せたってことはみんなに言い触らせって事でしょ?」 目元を赤く腫らし、今にもまた泣きそうな顔をして彼女を責め立てるが支離滅裂で、直人と別れた事が余程効いたのだろう、動揺が目に見えてしまう。 「違うの!花ちゃんになら見せていいかなって思って……」 俯き視線を右へ左へとせわしなく動かし、次に続く言葉を模索しているようだが見つからずしりつぼみ気味に会話が止まり沈黙が始まる。 彼の話では帰宅するまで延々と自己弁護していたらしく、自分は悪くない事を強調していたようだ。ここまできてようやく、彼は自分の愚かさに気付いたようで、別れ話を切り出した途端、彼女の顔は憤怒にまみれ頑なに拒否し続け、終いにはお得意のビデオや写真をネタに脅迫までしてくると、彼女に対して哀れみしか思い浮かばず、無視して帰ったらしい。彼の姿が見えなくなるまでずっと叫んでいたらしく、百草らしくないなとは思ったが予想出来たことでもあると感じた。 「ナオ君も望んでた事なんだよ。」 言われた意味が分からず、ただおうむ返しに望んでた事と返してしまうが彼女はそれに「うん。」と答え、言葉を続ける。 「ナオ君は素直じゃないから、嫌とか駄目とか言うけど最終的にはうんって頷いてくれるんだよ。だから今回だって、今はああだけど最後には私の所に戻ってくるんだ。うん、そうだ。絶対戻ってくる。ナオ君は私のこと好きなんだもん、戻ってくる。」 219 :一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06 25 57 ID D9NA27bk 呆れたとしか言いようがなく、彼女の開き直りっぷりには感服せざるを得ない。自分の言葉に納得し始めたのか、笑みがこぼれ惚ける、そうして何度も言葉を反芻し彼への愛を膨らませる。 私と彼の出会いを説明するにはまず、花ちゃんとの出会いを話さなければならない、あの忌ま忌ましい目つき、鼻持ちならない性格で私のナオ君に擦り寄って汚す。 そう、私は花ちゃんが嫌いで嫌いでしょうがない、それだけじゃない、私と彼との中を邪魔する人はみんな嫌い。 両親、花ちゃん、クラスメート、数えたらきりがない、ナオ君以外に興味がないから当たらず障らずに接したせいでみんなに頼れる人だと勘違いされて、ますます嫌気がさす。 話してる間にも想像のナオ君と幸せ一杯の高校生活を送り、気付けばトイレに篭り慰める。校内でいやらしい事をして、少しでもナオ君の温かみを感じたくて我が儘を言ってもナオ君は困りながらも頷いてくれる、そんな妄想をしては心を、体を慰めた。 話が逸れてしまったが彼女とは選択授業で知り合った。何気ない会話だったが同じ小学校に通っていたという共通点から知り合いから友達になり、お昼も一緒に食べる位に仲良くなった時に起因が生まれた。 「あ!、ナオっ!、今日委員会あるから。」 話の種として誰かと尋ねた、これが私をこれ以上なく変化させ、この怠惰な生活に光が、希望が差し込み、一つの考えが生まれた。 220 :一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06 26 36 ID D9NA27bk 私から見ても彼女は確かに綺麗かもしれない、少しつり気味でも瞳は大きく、目を細めると妖艶さが増して大人っぽく見える、ハーフかと思わせる高い鼻に野暮ったさは感じられない、程よく厚い唇、人を威嚇しない程度の身長が妙に子供っぽさを感じるがそれがまた可愛らしいのだが一番はその長く、手入れの行き届いた、黒い髪が特徴ではないだろうか。 長いから色々な髪型も出来て楽しそうではあるが面倒臭がりな私には分からないというかそこまで自分に気を使うことが無く、今でも丁度良い長さにしては寝癖を直す程度で付き合いだしてからようやく気になりだした。 その自分に磨きをかける人間が近くにいると嫌でも目について、いつかナオ君が奪われるんじゃないかと不安に思うようにもなった。 「花ちゃん。もうナオ君に関わらないで。それが無理なら名前で呼ばないで。」 あいつに無視されて1ヶ月が経った頃、彼の家の近くにある公園に来るようにとメールが届いた。来てみれば、百草はブランコに座りユラユラ揺れている、その目には生気は見られず初めて会った時のようでいてどこか狂っているように見えた。 彼女の姿を見て第一声がこれだ、これではムードもへったくれもないが百草にとってあたしは不快で不快でしょうがないのだろう。 「あたしがどう呼ぼうと勝手でしょう。」 「五月蝿い。花ちゃんは黙って言うことを聞いてればいいの。」 「あんた、もう彼女じゃないじゃん。ナオ、すっごく迷惑してるよ。」 「………あんたさえいなかったら。」 ブランコから降りて、フラフラ近付く彼女の右手は背中に回され一向に現れない、左の口角がピクピクと吊り上がり再び目に輝きが増しだす、恐らくこうして会話している間にも妄想しているのだろう。 221 :一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06 27 14 ID D9NA27bk 告白してから一週間が過ぎようとしたが一日一日と過ぎる度に百草は暇さえあれば答えを聞きに行った。あまつさえ、放課後はナオ君を尾行して、一人悶々と色々と考える。 私の夢は手の届く所まで近付いて、あとはどう手に入れるか、そればかり考えていた。 自分で言うのも何だが私は可愛い部類らしいし、皆勘違いして、誰にも分け隔てなく接する優しい性格もあるし勉強もそこそこ出来る、外見も中身も申し分ないのだから断る理由はまずないだろう。 いや、あったとしてもあれこれ言って付き合った方が良いように促せばいい話で、今隣にいるナオ君にどう切り出せばいいかまだ分からずにいた。 それでも、ナオ君の事を知れただけで充分過ぎる程でこの幸せな一時がずっと続けばいいななんて思い始めた時、考えるよりも早く言葉は出ていた。 「一度付き合ってみませんか?」 その言葉は私に希望を与えて、二人の世界を創って、そして私を変えてくれた。何に対しても積極的に励むようになり友達だって増えたし学力も伸びたがナオ君の彼女になれたことは何よりも嬉しかった。 他人行儀みたいな喋り方はしないこと、一緒に帰ったり、お昼も一緒に食べて、彼との距離を縮めていく。そうして、妄想を現実に変えていく。 「一度だけ…」、それは彼女の心に溜まる思いを素直に変えてはくれない。 222 :一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06 28 32 ID D9NA27bk 彼と過ごす日々は充実していたが彼の受け身と好意的ではない態度には嫌な気持ちしか湧かず、明らかに別れさせようとか落胆させようという狙いが見えて、妄想との違いに苛立だつようになり、それが屈折変質し余計に直人を束縛したくなった。 そうして、ふと頭に過る言葉。 それだけは私を裏切らず、想いを叶えてくれて、ナオ君が素直になってくれる素敵な言葉。 「一回だけ。」 そう言うとナオ君は暗い顔をして「違う」と呟き、「君は違う」と言葉を連ねた。 困惑していると彼は手鏡を渡し、また更に続ける。 「君は百草さんじゃない。」 洗ったつもりだったがまだ汚れが残っていて、服だって着た時はピッタリだったのに、目だってつり上がっていて……。 どこかでサイレンが鳴り出す、頭の中からか外からか分からないが警告してるんだろう、それを思い出しちゃいけない。あたしが誰かなんて、あたしは百草なんだ、でないと言葉の魔法が解けちゃう。 ……そうか。 花の魔法は解け落ちた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2584.html
333 名前:たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2[sage] 投稿日:2013/01/23(水) 18 15 50 ID RpFkDG2A [2/5] 高校までの道のりはいつも億劫だ。ぼけっとした頭のまま、今日はどんな日程だったかなと思考している。 でもそれは霞がかったように思い出せなくてそこで思考の波は途切れる。別に学校で見ればいいし、確認したかって面倒な科目が無くなるわけでもない。 はあとため息を付けば俺は蒼一色の空へと眼をやったりする。 こんなことやってもこの気だるさは取れそうにないけれど、でも憂鬱そうにアスファルトの路面を見ているよりはマシだった。 普段は心穏やかになりそうである綿飴のような白雲の層も、今はこっちを嘲笑っているようにしか見えなかった。 どことなく厳しく、清涼な風が頬を打つ。ぶるりと頭を振れば俺はそんな風景に対する抗議のように双眸を瞑った。 自動車が来るなら音で分かるし、なにせちょっとの間だ。ぶつかるなんてことはないと思う。たぶん。 ああ、視界が真っ黒だ。なんにも考えないで済みそうな暗闇にほっとして、少しだけ気持ちが楽になる。小さな反抗に酔いながら、ほら、ぶつかってこいやとでも心中で叫べば、背後からこの澄み渡る朝空にお似合いの、よく届く声が響き渡った。 「危ない! 眼を開けろ」 誰だっけかと剣呑な声色を寝起きのぼけっとした頭のデータベースで探っている間に、不意に俺は背後へと強く引っ張られる。 ワイシャツの衿で首が締まった。驚きと抗議の声をあげる間に、俺は背後へと数歩後ずさる。眼を開け、こんな乱暴なことをしたのは誰だと振り向いた。 「……薫?」 「やあ。僕だよ」 そこには幼馴染の友人が立っていて、彼女は腕を組むとあきれ果てたとばかりに肩を落とす。彼女は首を振って前を見ろと指図すれば俺も前を見る。 と、視界に映ったのは一本の大樹――ならぬ電柱である。 薄汚れたピンクチラシだのが張られた下に、茶褐色のこんもりと盛られた物体があった。グロテスクな形状のそれは熟成された刺激臭を放っているように思えた。 「登校中は眼を開けたほうがいいね。ぶつかった上にそんなもの踏みたくないだろ」 「あ、危なかった」 俺が大げさに眼を見張っているとなりで、薫はそんなことを言う。 彼女は腕を組むのを止めると背後で一つに括った長く、艶やかな黒髪を弄びながら俺の左手を掴んだ。 「とにかく。またあんな馬鹿なことをしないように一緒に付いていく」 「も、もうしないよ。安心してくれて大丈夫だ」 「君はそんなこと言って、また同じことを繰り返すんだからね」 問答無用とばかりに俺の左手を引くと彼女は俺を引きずるようにして進んでいく。 とりあえず手を繋ぐのは恥ずかしかったし、色々と拙い状況でもあった。俺は小声で言う。 「ちょっと待て、薫。やばいって」 「何が? 君が顔面に痣を作って靴の後ろに犬の排泄物をくっ付けることよりも危険なことかい」 「い、いやさ。その、第一俺が恥ずかしいし、それに……」 それに、俺なんかとそんなことをしている姿を見られたら彼女に迷惑がかかる。 薫は確かに幼馴染だが、学校でのヒエラルキーは俺よりもずいぶんと高いのだ。基本的に人当たりも良いし、容姿も相当なもの。 となれば取り巻きも少なからずいるわけで。 334 名前:たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2[sage] 投稿日:2013/01/23(水) 18 17 04 ID RpFkDG2A [3/5] 「ふーん。見られたら俺に迷惑がかかるーとでも言いたいわけ?」 「そ、そうだよ。だから手を」 「違うね」 手を離してもらえると、ほっとしたのつかの間。彼女は俺を見た。その中性的な容姿に冷笑がこびりついていた。俺は一瞬で顔を俯かせる。冷や汗が額に滲んだ。 「君はさ。自分が可愛いだけなんだよ。僕の取り巻きに陰口叩かれるのが怖いんだろ。いつも君はそんな感じだね。嘘吐きくん」 「……ごめん」 「そんな顔をしないでよ。君がそういう人間だって言うのは分かってるから」 彼女はぐんにゃりと力を失った俺の身体を引き寄せると、軽く抱きしめた。 「――それに、そっちのほうが可愛いしね。守ってあげたくなるなぁ」 くすくすと彼女は嗤った。鼻孔にふわりと漂うのはいつまでも嗅いでいたくなるような華の香りだった。なんだろう。よく分からない。 ただ昔からこうして彼女に包まれていると安心した。頭がぽーっとする。 「僕と一緒にいるかぎりは嫌なことから守ってもあげるし、不安なときは道を示してあげる。こうやって抱きしめることだってできるよ? 君が中学校でいじめられていたときも上手く対処してあげたし、小学校で友達を融通もしてあげたよね。あんまり君に構えないお母さんのために進路を作ってあげたりもしたっけ。まあ、君のためなら何でもしてあげる」 「う……あ……」 「ふふ、そんな情けない顔をしないでよ。本当に可愛いんだから」 彼女は母性を感じさせる顔付きで俺の頬を撫でた。ひどく胸の内が暖かくなる。 「君は本当に甘えん坊だね。普通の女の子は君なんか相手にしてくれないよ。分かってる?」 「……分かってる」 「うん。覚えておいてね。いくら君に親しむ素振りを見せようが、君のことを好きになる女の子なんて一人もいないんだ。みーんな君を内心では気持ち悪いって思ってるんだよ? くすくす。だから気をつけてね。中学校時代はどうなったか、よーく思い出しておかないと。君の好きだった一ノ瀬さんは?」 思わず顔を背けた。思い出したくない。軽い吐き気がこみ上げてくるのを必死で抑えた。薫はそれが気に入らなかったのか、軽く髪を掴むと顔を無理やりあげさせる。 「こら、質問には答えないと」 「……彼女は、いじめの首謀者だった」 「そうそう。本当に君って女運ないよ。女性不信もさもありなんってところだ。今でも彼女と連絡取ってるんだけどね。君の話題を振ったら途端に」 「やめてくれ!」 「うん。あんまりやりすぎるのも可哀想か」 そう言うと彼女は静かに微笑みながら俺を離してくれた。すぐに口を手で抑えると必死に逆流する胃液を引っ込めようとする。苦しさのあまりに眼から涙が零れた。 「僕が君のことを守ってあげるから。だから他の女性に近づいたらいけないよ。また辛い思いはしたくないでしょ」 彼女は繋がれていた手を離すと、ゆっくりと俺の背中をさすった。少しすればだいぶ楽になる。それを見計らって彼女は言った。 「手は許してあげる。さあ、学校まで歩こうか。遅刻扱いは困るからね」 「……うん」 俺が従順を込めて頷けば、彼女はその凛々しく秀麗な顔を笑みで歪めて。俺は彼女の後ろを忠実な従者のように進み始めた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2033.html
116 :猫のきもち。:2011/01/06(木) 14 39 48 ID Rv4EezCF 彼女を動物に例えるとするならば、猫だ。 気まぐれで、 計算高くて、 嘘吐き。 いつも、寂しそうに温もりを求めている。 そんな彼女だから、僕は好きになったのだろう。 その、寂しそうな横顔を和らげてあげたかった。 「佐伯っていつもここにいるよね」 「そんな嫌な顔をするなよ」 南校舎の屋上で鉢合わせをする。 ここは彼女のお気に入りの場所だ。 立ち入り禁止なので、人は来ない。 「優希が来なければいいんじゃないかな」 「ここはあたしの縄張りなの」 「ここは公共の場所で、しかも立ち入り禁止だよ」 「あんたもいるじゃない。立ち入り禁止なんだから早く出て行ってよ」 「嫌だね」 「ほんっっと嫌なやつよね、佐伯って」 憎まれ口を叩きながら僕の隣に座る。 また、日が暮れるまで他愛の無い話をする。 それは、優希がここにいる事を知ってからの僕の日課となった。 優希と話せるだけで満足している。 悪態を吐きながらも優希は、話している時にとても嬉しそうな顔をしてくれる。 その顔を見るために、毎日ここへ通っている。 「龍真って結構前から放課後にいなくなるよね?」 授業が終わり、屋上に行こうとしたら幼馴染に引きとめられた。 「あぁ、大事な用事があるからね」 「その大事な用事とやらは可愛い幼馴染のデートよりも大事なの?」 「自分で可愛いとか言うな。まぁアホな幼馴染とデートするより重要だね」 「アホとは心外だね、今ならいちゃいちゃできる権利もつけてあげるけど」 「恋人でもないのにいちゃいちゃなんてできないよ」 「そう・・・じゃあまた明日ね、龍真」 「またね、美弥」 屋上に行くと先に優希が座っていた。 美弥と話をしすぎたみたいだ。 「遅かったじゃない」 「あれ?待っててくれたの?」 「・・・っ!馬鹿!!そんな訳無いじゃない!むしろいなくなって清々したわよ!!」 「はいはい」 「何よその言い方!本当に待ってなかったんだからね!!」 「分かってるよ、優希」 「うぅ~~もう帰れ!その顔見てるだけでムカつく!」 顔を赤くしながら反論してくる優希。 ・・・やっぱりこの時間が一番大切だよなぁ その日は雑談している時も、優希の顔は終始赤く染まっていた。 117 :猫のきもち。:2011/01/06(木) 14 42 06 ID Rv4EezCF 今日は休日。 帰宅部の僕はやることがなく、暇だ。 「優希は休日に何してるんだろ」 休みの日には会えない優希。 ・・・今度映画にでも誘おうかな。 そう思った時、ポケットに入っていた携帯が震えた。 着信、美弥。 「もしもし」 「もしもし!龍真は今暇だよね!暇だね!分かった!!」 「・・・おい」 一方的に喋って一方的に切られた。 どうせ五分も経たない内にチャイムを鳴らされるに決まってる。 僕は観念して、出かける支度を始めた。 「で、龍真は今日何をするの?」 「美弥から誘ってきたじゃないか」 何も考えてなかったみたいだな、この幼馴染は。 「何もする事無いなら私についてきなさい!」 「別にいいけど、どこに行くの?」 「いいからいいから」 強引に連れられて来たのは喫茶店。 ファンシーな外装をしていて男が入るにはなかなか勇気がいりそうだ。 「ここのパフェが絶品なんだよ」 「僕は甘いもの苦手なんだけど」 「まぁコーヒーでも飲んで見ていればいいよ」 美弥が喫茶店に入っていく。 席に着いたところでメニューを見ずに注文していく。 ・・・慣れてるなぁ。 しばらくして、机の上に並べられていく甘い物達。 見てるだけで胃が重たくなる。 「後で欲しいって言ってもあげないからね!」 「いらないよ!」 美弥が机の上の甘い物を守るよう態勢になった。 そんな事しなくても食べないのに。 コーヒーを飲みながら美弥が食べ終わるのを待つ。 凄い勢いで食べ進める美弥。 結局、僕がコーヒーを飲み終わる位で完食した。 「いやぁ良く食べたね~」 「見てるこっちが胸焼けしそうだよ」 喫茶店をでた帰り道。 学校の近くを通った時、 (優希はいるかな・・・) ふと、そう思った。 一度気になると居ても経ってもいられなくなった。 「ねぇ、龍真?聞いてるの?」 「ごめん!美弥、用事ができた!」 「えっ?ちょっと待ってよ龍真!」 「本当にごめん!今日は楽しかったよ!」 来た道を戻り、学校に向かう。 部活があるためか、校舎は解放されていた。 急いで屋上へ向かう。 優希はきっと居ないのに、階段を駆け上がる。 屋上の重たい扉を開ける。 いつも二人で話していた定位置へ向かうと、 優希は、そこに、居た。 初めて会った時のような寂しげな表情を浮かべながら。 優希を見た時、顔が緩んだ。 顔を手で押さえ、表情を整えながら声をかける。 118 :猫のきもち。:2011/01/06(木) 14 42 59 ID Rv4EezCF 「こんにちは、優希」 優希は最初驚いた顔をして、嬉しそうな顔に変わり、そしてやっぱり不機嫌そうな顔になった。 「休みの日まで来るなんてよっぽど暇なのね」 「優希だってここにいるじゃないか」 「減らず口叩かないで。せっかくの休日が無駄になったじゃない」 「はぁ、分かったよ」 優希の隣に腰を下ろす。 こんな事なら誘えば良かったかな? そのまま優希と屋上で過ごした。 いつもより長い時間話してしまったため、かなり遅い時間になったな・・・ 「優希、送って行こうか?」 「あんたの口からそんな言葉がでるなんて思わなかった」 優希が凄く驚いた表情になっていた。 「折角だけどお断りするわ。狼となんて怖くて帰れないじゃない」 「僕が狼になんてなる訳がないじゃないか」 「はいはい、それじゃ龍真。また明日ね」 「じゃあね、優希」 優希と別れて家へ帰る。 そういえば優希から名前で呼ばれたのは初めてだった。 少しは心を開いてくれたかもしれない。 充実感を得ながら帰宅した。 次の日、家を出ると美弥がいた。 「昨日は何で帰ったの?」 「そ、それは・・・」 美弥は笑っているけど間違い無く怒ってるだろうな・・・ 弁解しようにも、優希に会いに行ったとは言えないな。 「本当にごめん。忘れてた用事があって」 「また用事か・・・今日も放課後は用事あるんでしょ?」 「う、うん・・・」 美弥には悪いが、優希との時間は邪魔されたくなかった。 「・・・許さない」 「え?何か言った?」 「ううん、それより早く学校に行こうよ」 「そうだね」 時間が無くなってきたので、学校へ向かう。 美弥はまだ怒ってたし、 また今度、美弥になにか奢らないとな・・・ 119 :猫のきもち。:2011/01/06(木) 14 44 02 ID Rv4EezCF 放課後になった。 直ぐに屋上へ向かう。 名前で呼んでくれたし、少しは会話に進展が・・・ 「うわ、また来たの?」 無かったみたいだ。 「龍真も暇よね。毎日毎日」 「そういう優希も暇だよね。暇人同士仲良くしようよ」 「そうね」 まぁ一応名前で呼んでくれるようになったから一歩前進かな。 態度は相変わらずそっけないけど。 僕は優希との会話に夢中になっていて、気付けなかった。 美弥が僕らを見ている事に。 次の日も美弥は迎えにきた。 「早く学校に行かないと遅れちゃうよ」 美弥は笑っているが、表情が硬かった。 学校へ行く時、いつもなら絶えず美弥が喋り続けるが、今日は何か思いつめた表情をしていて話さない。 沈黙が続き、しばらくすると美弥が口を開いた。 「今日も放課後は空いてないの?」 「うん・・・ごめん」 「またあの子に会いに屋上に行くんだね・・・」 「そうだよ」 美弥が優希を知っていた事に驚いたが、事実なので肯定をする。 「龍真、お願い。あの子に会う前に少しだけ時間をちょうだい」 真剣な目をして美弥は僕に言った。 「少しなら、いいよ」 「ありがと。じゃあ放課後体育館の横に来て」 「うん。分かった」 美弥の真剣な願いは断れなかった。 今日、優希に会うのは遅くなりそうだな・・・ 120 :猫のきもち。:2011/01/06(木) 14 44 59 ID Rv4EezCF 授業が終わり、体育館の横へ行く。 「何でこんな半端な所に呼び出したんだろ?」 「知りたい?」 いつの間にか美弥が来ていた。 「何でこんなところで待ち合わせするの?」 ここは土地が開けていて教室や廊下から丸見えだ。 「教えてあげてもいいけど、一つ質問に答えて」 「いいけど・・・」 「いつも屋上に行くのはあの子が好きだからなの?」 「・・・っ!?それは・・・」 「早く答えて」 美弥は不安そうな顔をしている。 僕は屋上で待っているであろう優希の事を思い、自分の気持ちを正直に話す事にした。 「あぁ、好きだよ」 「・・・そう、やっぱりね」 美弥は俯き、表情は読めない。 少し間を空けて、美弥が喋りだした。 「私、龍真の事が好きだったんだよ」 突然の、告白だった。 「今、龍真の気持ちを聞いて諦めがつくと思った。・・・でもやっぱり無理だよ」 美弥が泣いている。 慰めるべきなのだが、美弥の気持ちには答えられない。 僕は優希が好きだから。 「龍真ぁ・・・」 美弥が抱きついてくる。 手は、まわせなかった。 「美弥、ちょっと・・・!」 「龍真、こっち向いて」 言われるままに美弥の方を向くとキスをされた。 「美弥!やめてくれ!」 美弥を突き放す。 今起こった事が信じられなかった。 倒れた美弥を置いて、僕は走った。 「何であの子なの?ずっと私は龍真を見ていたのに!」 後ろから投げかけられる言葉は美弥のものだと思いたくなかった。 混乱しながらも、足は勢いよく階段を上がっていく。 優希に、会いたい。 屋上の扉を開け、いつも二人で話した位置まで進む。 優希はいなかった。 いつも僕が座る位置に腰を下ろす。 下を見ると先程自分がいた所で美弥が泣いているのが見えた。 優希は多分ここから見ていたのだろう。 僕と美弥が話している様子を。 「じゃあキスしてる所も見られたんだろうな・・・」 頭を抱える。 ここで、優希を待とう。 優希が来たらこの事を説明した後、告白をする。 そうしないと、このモヤモヤは取れそうにない。 121 :猫のきもち。:2011/01/06(木) 14 45 35 ID Rv4EezCF その日、待ち続けたが優希は来なかった。 次の日からも放課後は屋上で優希を待ち続けた。 優希は一向に来ない。 学校も休んでいるらしい。 焦りばかり募っていく。 待ち続けて一週間が過ぎた頃、優希が屋上へ姿を現した。 酷くやつれていて、フラフラとこちらへ向かってきた。 「ようやく来たか」 「・・・!?何でここに?」 優希は驚いていた。 「優希に言い忘れてた事があってね」 「・・・早く言って。どうせ話したら彼女の所に行くんでしょう?」 「先に言っておくけど、美弥は彼女じゃないからね」 「本当?」 「あぁ、僕が好きなのは優希だからね」 優希の返事を待つ。 「龍真っ!」 優希に抱きつかれた。 二人で目を合わせ、キスをする。 長いキスが終わった後、二人でいつもの場所に座る。 優希と手を絡める。 ずっとこうしたかった。 「でも、良かった」 「何が?」 「龍真も私を好きでいてくれて」 「あぁ、大好きだよ」 「これから龍真にする事の所為で、嫌われちゃったらどうしようかって悩んでたの。でも大丈夫そうね。」 「・・・!?」 何をするのか聞こうとした所で身体に鋭い衝撃が走る。 薄れゆく意識の中、見えた優希はとても恍惚とした表情を浮かべていた。 「あたしと龍真は恋人だもの、怒らないわよね?」 目を覚ますと、そこは見た事の無い部屋だった。 首に違和感を感じ、手を当てると首輪がついていた。 「起きたみたいね」 「優希、これはどういう事なの?」 「たとえ二人が愛し合っていても邪魔な存在は幾らでも湧いてくる」 優希が僕の肩に手をかけた。 ゆっくりとキスをする。 「だからね、龍真はここでずっと暮らすの。邪魔の入らないこの部屋で」 僕もキスに応える。 舌を絡めてお互いの存在を確かめる。 「さぁ愛し合いましょう?」 彼女は猫だ。 気まぐれで、 計算高くて、 嘘吐き。 寂しさを和らげるために僕はいる。 僕は今、幸せだった。